開催報告⑦:第2回「アフリカにおける感染症とUHCに関するPre-TICADサミット」
最終特別セッション:「アフリカにおける感染症と現在地」
グローバルヘルスをテーマに、日本とアフリカの政府関係者によるハイレベル対話を促進する最終特別セッション。MNMJの長島美紀氏がモデレーターを務め、アフリカにおけるUHCの実現に向けた政治的意志を確認し、アフリカが主導する効果的な支援策を探ります。登壇者は、2030年までにマラリアをなくすための議員連盟幹事長の古川元久衆議院議員、ALMA事務局長のジョイ・プマフィ氏、グローバルファンド渉外・広報局長のフランソワーズ・バンニ氏、Impact Sante Afrique事務局長のオリビア・ングー氏、マラリア・ノーモアCOOのドリュー・マクラッケン氏です。
日本からの揺るぎない支援の継続を
セッションの冒頭、アフリカから届いた2件のビデオメッセージが紹介されました。第1回Pre-TICADに参加したマラウイのクンビゼ・カンドド・チポンダ保健大臣は「日本政府が支援するグローバルファンドのおかげで、マラウイに1170万張の蚊帳が配布された。マラリアの根絶の目標を達成するため、今後もともに歩んでほしい」と呼びかけます。
ボツワナ共和国からは同国保健大臣スティーブン・モディセ博士が登場。同国のドゥマ・ギデオン・ボコ大統領は2025年2月、ALMAの議長に就任しています。グローバルファンドの第8次増資会合を前に、「ALMAを代表して、日本にはさらなる支援の拡充をお願いしたい」と訴え、世界的なリーダーが集まりマラリア撲滅の資金確保を支援する組織「エンド・マラリア・カウンシル」といった革新的な資金調達戦略の活用にも言及しました。
次に長島氏は、グローバルヘルスにおけるアフリカ諸国の現在の優先課題を尋ねました。
プマフィ氏は、「5歳未満の予防可能な死亡をなくすこと」と「UHCの実現」を優先課題とし、具体策としてアフリカ全土での保健システムの強化、データ管理の強化、地域医療従事者への研修などを挙げました。また気候変動対策には「教育や環境、農業といった関連分野との連携が不可欠」と指摘。「財務省と保健省が協力し、民間資金を含む持続可能な資金調達の枠組みを構築するためにも、TICADでは技術支援への投資の拡大や保健分野の人材育成について議論すべき」とし、国際的な連携の重要性も指摘します。
ングー氏も、マラリア撲滅に向けたグローバルファンドの役割を高く評価するとともに、アフリカ大陸内の取り組みについて言及します。「ウガンダやカメルーンでは、保健省に加えて教育や農業、環境省などもマラリア対策に関与する仕組みが整っている。民間セクターや研究機関との連携により資金調達が強化され、より効果的な対策が実施できる」。この取り組みを継続するためにも「国家レベルでの強い政治的リーダーシップが不可欠」と強調し、日本との継続的なパートナーシップに期待を示しました。
180億ドルで4億人の感染を防ぐ
マルチセクター間の連携を求めるアフリカからの声に対して、日本はどう応えるのでしょうか。古川衆院議員は、マラリア撲滅に向けた重要な要素として「継続的な取り組み」と「資金確保」を指摘し、「日本はグローバルファンドを立ち上げた国として、継続的な拠出を実行し、マラリア対策を途切れさせないことが不可欠だ」と力を込めました。
続いてオンラインで登壇したバンニ氏は、マラリア対策に有効なイノベーションについて説明します。「2種類の殺虫有効成分を使用した新しい殺虫剤処理蚊帳、子どもを対象に定期的に予防薬を投与する季節性マラリア化学的予防(SMC)、妊婦向けの間欠的マラリア予防薬投与(IPTp)、殺虫剤の室内残留噴霧(IRS)、WHOが承認した2種類の新型マラリアワクチン(RTS,SとR21)」を列挙し、「限られた資金の中で各国の状況に合った最適な戦略を選ぶことが重要で、それを運用できる人材や医療システムの強化も必要」と指摘。持続可能なマラリア対策を実現するには、政府や市民社会、医療機関、さらには日本を含む国際パートナーとの連携が不可欠だと強調しました。
こうした支援を継続するには資金の確保が不可欠ですが、「国内外の資金不足が最大の課題」とバンニ氏。そこでグローバルファンドは2025年2月、第8次増資に向けた投資計画を発表しました。今後3年間で180億ドルの調達を目指し、達成すれば2300万人の命を救い、3大感染症の新規感染を4億件防ぎ、1ドルの投資ごとに19ドル相当の経済的利益をもたらすといいます。マラリア対策については、その影響を最も受けるアフリカ諸国への資金配分が優先される予定です。
感染症対策を最優先課題に
ここで長島氏は話題をTICADに移します。TICADに求める成果として「感染症の撲滅と保健システムの強化、人材育成などの取り組みを加速させ、グローバルファンドやGaviなどの国際組織との連携を強化する契機としたい」と古川衆院議員。マラリア・ノーモアのマクラッケン氏は、「グローバルヘルスを取り巻く課題が複雑化し、マラリア対策の進展が後退するリスクが高まっている」として、「感染症対策と保健システム強化を最優先課題として取り上げることが欠かせない」と訴えます。
マクラッケン氏はまたTICADで議論を深めるテーマとして、(1)マラリア予防を中核とした疾病予防と管理、(2)医薬品や殺虫剤処理蚊帳の現地生産・供給網の強化による医療資源の安定供給と保健医療システムの強化、(3)マラリアの制圧による医療資源の確保とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進、(4)感染症対策の強化による世界的な健康安全保障への貢献を挙げ、「TICADは公衆衛生の向上と持続可能な経済発展を推進する上で、極めて重要な役割を果たせる」と前を向きました。
ここで長島氏は、「3年前のTICADとは違い、今回は気候変動とマラリアがより密接に語られるようになった」と指摘しました。
この点についてプマフィ氏は、ALMAも連携するエンド・マラリア・カウンシルに言及しました。「ここには民間企業だけでなく、農業や水資源、森林を管轄する政府の部門も関与している。これらの機関が保健省と連携することで、各国の気候変動対策の指針である『国が決定する貢献(NDC)』の目標達成がより効果的に進む」と説明。民間企業が政府と協力することでCSR資金の投資対効果を高め、「TICADを通じた支援と組み合わせれば、より大きなインパクトを生み出せる」と改めて強調しました。
最後に登壇者が一言ずつ述べ、2030年のゼロマラリア達成を目指してアフリカと日本が協力して取り組むことを誓い合います。閉会の言葉としてマクラッケン氏は「TICAD9に向けてアフリカの公衆衛生への関心がさらに高まり、日本が引き続きイノベーションと投資の分野でリーダーシップを発揮することを期待する。マラリア撲滅に向けてともに歩んでいきたい」と締めくくりました。