G7広島首脳コミュニケに対する意見(見解)
2023年5月13日・14日にかけて長崎にて開催されたG7長崎保健大臣会合の成果文書、並びに2023年5月19日から21日にかけて広島にて開催されたG7広島サミットの首脳コミュニケが発表されました。
様々な地球規模的課題がある中でグローバルヘルスを重要課題と位置づけ、網羅的な議論がなされ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた取組を通じて、既存の感染症であるマラリア対策など重要な国際保健課題に投資する決意が示されたことには深く敬意を表します。そのうえで、弊団体は、G7長崎保健大臣宣言の内容を踏まえつつ、採択されたG7広島首脳コミュニケに関し、以下の点につき、今後さらに認識が共有され、具体的な取り組みへの議論が進むことを期待します。
1. 保健:
「我々は、人道的な状況における場合も含め、HIV/エイズ、結核、肝炎、マラリア、ポリオ、麻疹、コレラ、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症、薬剤耐性(AMR)、メンタルヘルス症状を含む非感染性疾患(NCDs)、全ての人の包括的な性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の実現並びに定期予防接種、健康的な高齢化及び水と衛生(WASH)の促進といった、パンデミックによって大きく後退した様々な保健課題に対応する上で、UHCの不可欠な役割を再確認する。」と明記され、マラリアが重要な保健課題として再確認されたことは評価します。一方で、グローバルファンドの7次増資の目標額は依然として未達であり、「HIV/エイズ、結核及びマラリアの流行収束に向けたG7及びその他の国々からの財政支援を歓迎する」と明記されました。こうした中GHIT Fundのマラリア、結核、NTDs の新薬開発の加速化に加え、将来のパンデミックへの備えとしての研究開発促進のための新5カ年計画に対し、日本政府からの追加投資が決定されたことに敬意を表するととともに、2030年までにゼロマラリアを達成するためのさらなる資金調達に向けたG7のリーダーシップを期待します。
また、序文には、「我々はまた、持続可能な開発のための資金ギャップに対処するために、既存の資金の効率的な使用及び国内資金の更なる動員並びに民間金融資産の動員を求める。」とあり、2030年までにSDGs目標の達成にG7として強いコミットメメントが表明されたことは評価できる一方で、そのための資金調達については「我々は、一部の国が採用している国民総所得(GNI)に対する政府開発援助(ODA)比0.7%目標などのそれぞれのコミットメントの重要性を認識」することにとどまり、「革新的資金調達メカニズムを含むODAの増加とその触媒的な利用の拡大のための継続した取組の必要性を強調」するも具体的な取り組みについては不明です。この資金ギャップを埋めるための資金調達のメカニズムの構築と実行は喫緊の課題であり、G7各国のリーダーシップを期待します。
また、「我々は、薬剤耐性(AMR)の世界的かつ急速な拡大を認識しつつ、2024年のAMRに関する国連総会ハイレベル会合に向けて、抗菌薬の研究開発を加速させるためのプッシュ型及びプル型のインセンティブを探求し、実施するとともに、抗菌薬へのアクセス及び抗菌薬を慎重かつ適切に使用するための管理を促進することに引き続きコミットしている。」と明記されており、国際保健上の脅威の解決のための研究開発の加速と管理の促進へのコミットメントについては敬意を表します。マラリアなど蚊媒介性感染症では、感染症危機対応医薬品等(MCM)など医薬品のみならずベクターコントロールが第一の基本対策であり既にその高い有効性は実証されています。媒介蚊の殺虫剤抵抗性の発達などによる薬剤耐性の問題や蚊の行動変容の問題などベクターコントロール分野における研究開発についてもその重要性につき再認識するとともに、MCMなどの研究開発と並行して加速推進されるべきです。ベクターコントロールといった新規対策ツールの研究開発促進を含め、製造、迅速かつ衡平なアクセスを含めた包括的なサプライチェーン構築など世界的なエコシステム構築が必要であり、G7各国のリーダーシップを期待します。
加えて、前文にある「我々は、誰一人取り残さず、人間中心で、包摂的で、強靱な世界を実現するために、我々の国際パートナーと協働していく」との大原則のもと、UHC達成などに向け「我々は、特に脆弱な状況にある妊産婦、新生児、乳幼児及び青少年を含む全ての人の包括的な性と生殖に関する健康と権利(SRHR)を更に推進することにコミットする」と明記されたことに敬意を表します。
2. 気候変動:
「我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機並びに進行中の世界的なエネルギー危機からの未曾有の課題に直面」していること、また、「気候変動がもたらす脅威の増大に直面する中、気候変動に脆弱なグループの支援は、人間の安全保障を確保し、強靭で持続可能な開発を実現するために不可欠である。我々は、早期警戒システムに関連した「気候リスクに対するグローバル・シールド」及び他のイニシアティブや気候変動に対する強靭性を取り入れた借入条項の導入も含む、気候変動適応、気候災害リスク削減、応急対応、及び復旧・復興、及び早期警戒システムの強化を通じて、気候変動に脆弱なグループの強靭性を強化するための支援を増加・強化し続ける。」と記載されており、気候変動が引き起こす災害や生物多様性の消失を含めた環境面への影響に焦点があたっているが、ヒトの健康(特に脆弱な人々)への影響についても気候変動への適合の観点から重要性の理解が促進され、必要な対策が講じられるべきです。
マラリアなどの感染症は、気候変動による影響をもっとも受けやすく、気候変動の予想を踏まえたマラリア対策などの事前提供など保健システム強化の取組の一環として、特に、気候変動やマラリアなど感染症高リスク地域・国において優先的に対策が取られる必要があります。これまで蓄積されてきた気候やマラリアに関するデータを先進技術を駆使して統合的に解析し、気候変動の予想からマラリア発生の予想ができる革新的なシステムの早期開発と実装は、パンデミックの予防・備え・対応(PPR)やUHC達成のためにも貢献するものであり、今後の国連ハイレベル会合や国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)において気候変動と健康の課題として取り上げられ、気候変動と保健のそれぞれの専門家や分野横断的なステークホルダーによる国際的な連携を通じて統合的な取り組みが推進されることを期待します。
以上