2023年「世界マラリア報告書」へのマラリア・ノーモア・ジャパンの声明

マラリア・ノーモア・ジャパン理事長の神余隆博は、世界保健機関(WHO)が公表した「2023年世界マラリア報告書」について以下の声明を発表しました。

WHOは、2022年のマラリア患者数は、世界全体で前年より500万人増加し、推定2億4,900万人のマラリア患者が発生したと報告しました。これは、COVID-19によるパンデミック発生前の2019年から1,600万人上回ったことになります。気候変動や人道危機など複数の地球的課題に直面する今、世界のマラリア対策は、資金面の制約、マラリアの疾病負荷の大きい国々におけるプログラム実施の遅れなどにより、このままでは2025年のマイルストーン達成は難しい状況です。

「地球沸騰化」の時代、気候変動による気温や湿度、降雨量の変化は、マラリアを媒介するハマダラカの行動や生存に影響を及ぼしています。また、熱波や洪水などの異常気象も、伝搬や疾病負荷に直接的な影響を与えることから、気候変動は最大のリスクと警笛を鳴らしています。テドロスWHO事務局長は「気候危機は健康危機だ」と表現されましたが、まさに、2022年にパキスタンで発生した大洪水の影響でマラリア患者数が5倍にも増加した状況が物語っています。

マラリアのない未来に向けて前進するためには、資金増額に加え、政治的コミットメントの強化および、薬剤耐性や殺虫剤耐性といった諸課題にも適切に対応しつつ、データ主導の戦略と革新的な対策ツールを導入することが必要です。さらに、気候危機という新たな脅威に立ち向かうための国際協調的かつ分野横断的取り組みの加速化が求められています。

先日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、世界全体の温室効果ガスの排出削減の進捗を確認する「グローバルストックテイク」が実施されました。残念ながら各国の現在の取り組みでは産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標達成は、「ほぼ不可能」と認識されています。今後、気候変動に対する緩和策のみならず、これまで以上に適応策に資金を投入し、マラリアのような最も気候の影響を受けやすい感染症の脅威を減らすための緊急行動が必要です。

マラリア・ノーモア・ジャパンは、「COP28 UAE 気候と健康に関する宣言」が日本政府を含む123カ国の賛同によって採択さたことを、歓迎いたします。そして、日本政府の標榜するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けて、気候変動に対する健康ソリューションへの資金動員の促進と持続可能で回復力のある強靭な保健システム構築を通じた国際的な支援の促進など、日本が戦略的、且つ、実効性のあるリーダーシップをとることを強く求めます。

マラリア・ノーモア・ジャパンは、世界が約束した「2030年までにマラリアを排除する」という目標達成に向け、政策提言を通じて日本のマラリア排除へのコミットメントと必要な取組が確実に実行され、具体的な成果を上げ続けることができるよう活動を続けていきます。

また、Malaria No More CEOのマーティン・エドルンドも、同報告書に対し以下の声明を発表しています(ドバイ、2023年11月30日)。

人類は、マラリア対策の今後の持続的な進展を揺るがしかねない、暴風雨や洪水といった、破滅的な事態に直面しています。薬剤や殺虫剤に対する耐性の増大、新種の蚊、資源をめぐる世界的な対立、そして気候変動が引き起こすマラリア感染の拡大といった問題は、過去20年間のゼロマラリアに向けた歴史的成果を水泡に帰すものです。

気候変動がマラリアに及ぼす影響が顕著となる中、WHOが第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の開幕に合わせて「世界マラリア報告書2023」を発表したことは、まさに時宜を得たものです。COP28で初めて開催される「健康の日」を前に、私たちは世界の保健コミュニティとともに、気候危機が引き起こす健康危機の拡大に警鐘を鳴らします。

地球温暖化はさらなるマラリア対策を必要としています。降雨パターンの変化、雨季の長期化、頻発し、激甚化する異常気象、マラリア媒介蚊の生息域を拡大させる気温の上昇が指摘されています。2021年に起きたパキスタンの洪水は、被災地域ではマラリア患者数が350%も増加しました。この洪水も気候変動が引き起こしたと考えられています。

同報告書によると、世界のマラリアによる死亡者数はCOVIDパンデミックの最盛期から減少しているものの(2022年には60万8,000人)、マラリア全体の患者数は昨年の新規感染者数が2億5,000万人近くと、停滞傾向にあります。

課題が山積する中、マラリア対策への世界的な投資が2021年の35億ドルから2022年には41億ドルに大幅に増加し、昨年だけで3カ国がマラリアゼロの国に認定されたことは心強いことです。

ゼロマラリアを目指す技術革新はかつてないほど充実しています。気候変動によってもたらされるリスクを大幅に軽減、あるいは排除する可能性のある有望な新治療法、ワクチン候補、モノクローナル抗体、そして新しい蚊のテクノロジーで溢れています。また、潜在的なマラリアの流行を事前に予測し、予防することができるデータ主導型のマラリアの早期警報システムにも実質的な進歩が見られます。

私たちが迅速に行動すれば、気候変動によってマラリアの状況が悪化するのを食い止められるのです。しかしそのためには、技術革新と投資が必要だと、強く訴えます。

マラリア・ノーモア声明文の英語原文はこちらからご覧いただけます。

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マラリア・ノーモア(Malaria No More)について

Malaria No Moreは、蚊に刺されて死ぬ人が一人もいなくなる世界を目指し活動しています。設立以来15年にわたり、ゼロマラリアの世界づくりに向け貢献してきました。現在、私たちの世代でマラリアを撲滅するという、人類史上最も偉大な偉業を達成するために必要な政治的コミットメント、資金やイノベーションを結集する活動を行っています。詳しくは、www.malarianomore.orgをご覧ください。

マラリア・ノーモア・ジャパン(Malaria No More Japan)について

Malaria No Moreのアジアの拠点として、2012年に発足し、2022年に10周年を迎えます。産官学との連携を強化するZEROマラリア2030キャンペーンをはじめ、日本政府への政策提言や企業連携を通じたマラリアの啓発活動などを展開しています。

詳しくは、www.malarianomore.jp をご覧ください