4/7イベント報告 ~ハイレベル政策対話「UHC時代における感染症対策の日米および国際協調を考える」~
認定NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパン(MNMJ)は、Asia Pacific Leaders Malaria Alliance (APLMA)の助成を受けて「2030年までにマラリアをなくすための議員連盟」と共催で、4月7日(木)にハイレベル政策対話「UHC時代における感染症対策の日米および国際協調を考える」をハイブリッド形式で参議院議員会館にて開催しました。会場とオンラインで日本政府、アカデミア、民間企業、国際機関、市民社会など広範な分野より合計約80名の参加がありました。
MNMJ理事長の神余隆博による開会挨拶、そして、来賓挨拶に続きパネルディスカッションが行われました。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた保健システムの強化の一環としてマラリア対策の戦略的な意義、ゼロ・マラリアに向けた日米のリーダーシップと連携の在り方、および世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)を通じた資金拠出による感染症対策強化に向けた支援などの国際協調の重要性につき政治家、行政機関関係者、官民連携基金関係者と討論しました。
*登壇者の経歴は“こちら” https://malarianomore.jp/archives/12618 をご覧ください。
- 来賓挨拶
グローバルファンド日本委員会議員タスクフォース共同議長である逢沢一郎衆議院議員は、「グローバルファンドの意欲的な第7次増資計画に対するバイデン政権の拠出予算額は、世界の政府に良い意味でのプレッシャーになることを期待する」として、「途上国を含め全世界のUHCの体制強化と将来起こりえる感染症の備えにも心してまいりたい」と述べました。
また、2030年までにマラリアをなくすための議員連盟会長であり、与党自由民主党の国際協力調査会会長(ODA担当責任者)でもある松本剛明衆議院議員は、「人類にとりマラリアは重要な課題であり、コロナ禍での悪化した状況を打開するため、感染症対策にしっかり取り組む必要がある。これまで日本は官民連携した活動を通じてリーダーシップを発揮してきており、保健衛生分野を重点分野として政策提言を行っていきたい」と意気込みを語りました。
- パネルディスカッション
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) CEOの國井修氏がモデレーターとなり、グローバルファンド事務局長のピーター・サンズ氏(ビデオメッセージ)、外務省国際協力局参事官(地球規模課題担当)の原 圭一氏、米大統領マラリアイニシアティブ(PMI)グローバル・マラリア・ コーディネーター代行のジュリー・ウォレス氏、グローバルファンド保健システム部長の馬渕俊介氏の4名のパネリストを迎えて、地域の状況に合わせたマラリア対策の最適化とその実施、研究開発の加速推進と活用、保健システムのさらなる強化などについて、日米連携と国際連携のあり方につき議論されました。
世界マラリア報告書2021年によると、2019年から2020年にかけ新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響でマラリア患者数と死亡者数は増加したと報告されており、途上国のエイズ・結核・マラリアおよび保健システム強化に資金を拠出する国際機関グローバルファンドは今年の2月23-24日の増資準備会議にて2024-26年の3年間の必要資金を最低180億ドルとする資金到達目標を採択しました。今後、この資金ターゲットに向けて、主要援助国をはじめ、新興援助国、対策実施国、民間財団、民間企業、資産家等による拠出誓約が行われ、今年9月~10月に米国でバイデン米国大統領がホストとなり開催予定の増資会議でその成果がまとめられることとなっています。
サンズ氏は、マラリア対策が2019年から2020年にかけて逆戻りしたことに触れ、「UHC達成には保健システムの強化が必要であるとして、技術革新、診断、サプライチェーンなどの広範な分野での支援につき、グローバルファンドと日本は重要な役割を果たす必要がある」と述べ、日本からの継続的かつ適切な資金拠出への期待を述べました。加えて、馬渕氏は「現地コミュニティを通じた保健医療サービスの強化、診断や蚊帳配布を担当するコミュニティ医療従事者の育成と支援の拡大が特に重要な取組み課題である」とコメントしました。
日本のマラリア対策に関する取組みについて、原氏は、日本政府としては保健分野の取り組みを重視してきており、国際協力機構(JICA)による二国間支援では過去20年間で42億円に上るマラリア対策に特化した二国間協力案件を実施していることを紹介しました。その上で、「わが国は、グローバルファンド、ユニットエイド、GHIT、Gaviなど感染症対策で重要な役割を果たしている国際機関・官民連携基金の活動を資金拠出、政策決定への関与を通じて支援している。グローバルヘルス戦略策定(5月に策定)を通じて、人間の安全保障の理念”を踏まえ、また保健のみならず教育,水衛生等の幅広い視座から,UHC達成の鍵である、強靱かつ持続可能な保健システム、良質で廉価な医薬品への公平なアクセスの強化を通じてマラリアなど感性症対策強化にしっかりと取り組み、UHC達成、将来の感染症パンデミックへの備えとしてグローバルヘルス諸課題に取り組んでいきたい」と述べました。
一方、米国PMIのマラリア対策に関する取組みについて、ウォレス氏は、「PMIは27か国(うち24か国はサブサハラアフリカ)においてプログロムを実施している。PMIの現在の戦略【“End Malaria Faster(マラリアを早期に終息させる)”】は2021~2026年をカバーするもので、現地保健システムとサーベイランスに戦略的な投資をすることによって、マラリア対策だけではなく、感染症パンデミックへの備えや対応ができるよう、強靭な保健システムの構築に貢献している。例えば、ガーナでは国民健康保険制度のサポート、ルワンダやコンゴ民主共和国ではマラリアの薬剤・殺虫剤抵抗性をモニタリングしている科学者の専門技術が新型コロナウイルス感染症の追跡やウイルス株の特定につながっている」と報告しました。
また、原氏は、二国間連携あるいは国際機関連携の観点から「国際機関と現地保健当局間の財政面での連携に加え、各国の保健当局と財政当局の連携強化による資金確保と循環のための自助努力も必要。日米は二国間連携に加え、グローバルファンドを通した連携(資金面、ガバナンス)を展開し、新型コロナウイルス感染症でもうまく連携し対応に当たっている」と語り、「今回の新型コロナウイルス感染症でもマラリア個別対策で構築した保健システムが新型コロナウイルス感染症対策にも活用できることが認知されたことは、今後蔓延するかもしれない新たな感染症の備えにもなる。さらに、日本企業へのR&D加速への支援(新しいツールの開発)や日米(+α)R&D連携強化にも取り組んでいきたい」と述べました。
原氏の発言を受けて、國井氏は「世界が拠出している年間約5兆円という保健分野の国際援助は世界全体の医療費支出額の1%以下であり、援助額の増加に加えて低中所得国の保健予算を増やしていくこと、二つ目は新しいツール、つまり新しい診断、治療、予防の開発が重要」とし、「懸念が高まっている薬剤耐性への対策など課題解決に向け、日本の技術面での国際貢献はもとより、日米間でもR&D連携を推進していく必要がある。日米技術対話の再活性化を提案したい」と語りました。加えて、「リアルタイムでローカルの罹患状況(健康データ)、サプライチェーン、人材など関連データをオープンデータとしてタイムリーに情報共有できる統合したDXシステム(保健サービス)の構築が求められている」と述べました。
ウォレス氏は、「グローバルなレベルでの研究開発推進と商品開発に向けての日米の連携は非常に重要なので円滑に進めたい」と述べ、現地でのPMIの活動については「財政面での支援と技術的専門性の提供を通じコミュニティヘルスシステム基盤の強化を推進していく。現地医療従事者育成やコミュニティとの連携強化を通じ現地におけるプライマリーヘルスサービスへのアクセス改善、サプライチェーンにおける情報システムの強化と現地でのマラリアサービスの質を確保したうえで提供することなどUHCパッケージの提供により現地支援を強化する」として、今後サミットなどで日米連携した取り組みを議論し推進することへの期待を寄せました。
馬渕氏は、リアルタイムでデジタルテクノロジーを使ったデータ分析をして問題解決に生かすというアプローチが広がっていることにふれ、「グローバルファンドとしても情報システムへの投資は重点領域である。現場コミュニティ医療従事者がスマートフォン経由でデータを入力し、直接到達が難しい地域のデータがタイムリーに可視化されコミュニティレベルで分析でき、ネットワークで繋がれば素晴らしいが、データを統合的に管理できるインターフェース構築は難しい問題である」と応えました。
最後に國井氏は、市民社会活動の重要性にも触れ、「UHC実現には日米市民社会・現場NGOとの連携を通じたアドボカシー推進、DX活用による保健システム構築、現場人材育成、対策ツール開発などのR&D推進とデリバリー体制強化など日米連携して進める必要がある。引き続き各国ハイレベル会議でグローバルヘルスを取り上げていただき、日本のグローバルヘルス予算の倍増を期待する。」と語りました。